日本画の技法上の特徴には、対象の形を線で描き出すということがあります。そのために線の太さや強弱に合わせて何種類もの筆を使うという用具の特徴が生まれました。また彩色に膠で溶いた岩絵具を使うのも日本画独自の技法で、用具や材料の多くもこうした技法に合わせて作り出されています。
道具をそろえる
絵具の種類
たくさんの種類がありますが、一般的には岩絵具を使ったものが日本画と 呼ばれます。絵手紙や俳画などは顔彩だけで制作できます。
岩絵具
日本画には欠かせない絵の具で、天然岩絵具と化学的に作られた新彩岩絵具があります。天然岩絵具は高価で色数も限られていますが、現在は安価で色数も豊富な新彩岩絵具が主流です。
水干絵具(すいひえのぐ)
水干絵具は指や乳鉢で空ずりし、膠液で溶いて使います。岩絵具よりも安価で使いやすいので初心者向けに適しています。定着剤を入れて練りこんだ、手軽に使えるチューブ入りもあります。
胡粉(ごふん)
白色の絵具や発色を良くするための下塗りや盛り上げとして使います。混色して微妙な色を作ることもできます。定着剤を入れて練りこんだ、手軽に使えるチューブ入りもあります。
顔彩(がんさい)
日本画材料の中で一番普及しています。顔料に水性固着剤を混ぜ、練り合わせて、角皿に入れて乾燥させたものです。そのまま水で溶いて使います。
鉄鉢(てっぱち)
日本画材料の中で一番普及しています。顔料に水性固着剤を混ぜ、練り合わせて、丸皿に入れて乾燥させたものです。角皿に入れたものが顔彩、丸皿に入れたものが鉄鉢と呼ばれています。そのまま水で溶いて使います。
粉末絵具
金属粉末を装飾的に使うもので、泥(でい)とも呼ばれます。金泥、銀泥、アルミ泥などがあります。
墨
墨は、下描き(骨描き)や、絵の具の黒のように使います。
その他必要なもの
・ぼろ布 ・ティッシュ・古新聞・前掛、エプロンなど
その他必要な道具と材料
膠(にかわ)
動物のコラーゲンを加工したもので、画面への固着力のない絵具の接着剤として使います。すぐに使える膠液が便利です。
明礬(みょうばん)
紙を滲み止めをするためのドーサ液を作ります。すぐに使えるドーサ液が便利です。
紙(基底材)
日本画用に漉かれた和紙を使います。ドーサを引いて滲み止めをし、パネルやボードに張ります。麻紙ボードや雲肌麻紙ボードはそのまま使えるので便利です。
絵具皿、梅皿、
乳鉢、乳棒
絵具を溶いたり、すりつぶすのに使います。
日本画制作手順
ここで紹介しているのは一例です。描き続けるうちに自分流の描き方をみつけてください。
モチーフを選ぶ
モチーフは、気に入ったものを使えばいいのですが、形や色、大きさなど変化があるものを取り合わせると面白い構成ができます。また、モチーフを置く場所は、モチーフにあたる光が一定で、モチーフの物質感などを見るのに適した場所をえらびます。
小下図を作る
モチーフをよく観察し写生やスケッチをします。これを小下図といいます。
大下図を作る
下絵を本紙と同じ大きさに描きます。これを、大下図と言います。
紙にドーサを引く
紙(または絵絹・板・麻布・綿布など)に、ドーサ(礬水)を引きます。これは、にじみ止めのためです。麻紙ボードはドーサ引きの必要がなく、そのまま使えるので便利です。
紙を張る
骨描き(こつがき)
チャコペーパーで下図を本紙に転写し、薄墨で輪郭を描きます(骨描き)。チャコペーパーは水溶性なので、制作の途中で線が消えて便利です。
下塗り
日本画の絵具(胡粉、水干絵具、岩絵具、膠液、など)は、重ね塗て色を出しますので、仕上げの効果を考えて、下塗りに充分な時間をかけます。
彩色
岩絵具や水干絵具を使って彩色して行きます。色は薄い色から塗り始め、次第に濃い色を塗り重ねながら全体の調子を整えて行きます。
仕上げ
全体のバランスを見ながら、細かいところを仕上げます。完成すれば、落款とサインをします。
岩絵具の溶き方
岩絵具は膠液を使って、指で丁寧に溶くことが大切です。また、膠の量が重要となりますので、絵具の発色や定着のよい濃度と量を覚えるようにしましょう。
絵具は置くように彩色し、完全に乾いた後に重ね塗っていきます
※岩絵具の朱色を使うときには特に注意が必要です。
●朱の溶きかた
本朱、赤口洗朱、黄口洗朱は膠となじみにくいため、膠液をごく少量ずつ加えながら、丁寧に練り合わせます。
一度に多量の膠液を入れると、溶きにくくなるので、注意が必要です。
また、朱は銀箔、アルミ箔に彩色すると、科学変化を起こして変色するおそれがあるので、使用しないでください。
水干絵具の溶き方
絵具を皿に移し、膠液を少量ずつ加えながら、指の腹でよく練り合わせます。次に水を加え混ぜ、描きやすい濃度に溶き下ろします。絵具を多量に溶くときは、まず乳鉢にとり乳棒でよくすります。
●金泥の溶き方
金泥を絵皿に取り出し、膠液を少量ずつ加え、指でよく練りつぶし、さらに絵皿にこすりつけるように練ります。
次に絵皿ごと電熱器にかけ、焼き付け(水分を蒸発させる)そのあと火からおろし、たっぷりのぬるま湯でよくかき混ぜます。そして最後に、上澄みのアクを捨て、膠液を水を加えて溶き下ろします。
●顔彩・鉄鉢の使い方
通常は、筆に水を含ませるだけで彩色します。
仕上がった作品を表装する場合、絵具を絵皿に取り、膠液を加えてから描きます。
作品により膠と水を使い分ければ良いでしょう。
胡粉の溶き方
日本画の代表的な絵具である胡粉は、カキの貝殻を何年もかけて風化させた後に作られます。
単に白の絵具として使うだけでなく、下塗りに使って上の絵具の発色をよくしたり、他の絵具に混ぜて色を抑えたり、さまざまな役割を担っています。
また白として使用しても、他の顔料と違った独特の味わいがあります。
乳鉢に胡粉を少し多い目に入れ、乳棒で粒々がなくなるまでよくすり潰す
膠液を少しずつ入れ、よく混ぜながら練って耳たぶくらいの堅さの団子を作る
団子を絵皿に取り、100回ぐらい強くたたき付け、膠と胡粉をよく馴染ませる
でき上がった団子をつかうだけ別の絵皿に取り、水を少しずつ入れ、指の腹でゆっくりと丁寧に溶きおろしていく。残った胡粉は団子のまま冷蔵庫に入れて保存する。
日本画筆の選び方について
刷毛
刷毛
羊毛使用。柔らかく、水を含みがよい。水引き・水彩・ドーサ引き用。
20号
絵筆
削用
(さくよう)
イタチ、羊毛、鹿毛
輪郭線や図柄全体の線を描くのに最適な筆で、運筆より細く、面相筆より太い。
きれ味の良さが特長で、仮名文字を書くのにも最適。
中
隈取
(くまとり)
馬毛、鹿毛
ぼかしに使用する筆。短峰彩色としても使い勝手が良い。
中
面相筆
(めんそう)
イタチ毛
細部の緻密な作業や線描きには欠かせない筆。
中
日本画筆の主な種類について
刷毛
ドーサ刷毛
ドーサは動物繊維の毛を傷め易いのでドーサを塗る為のみに使用します。湯につける事が多いので、柄の部分をラッカーで仕上げています。
絵刷毛
羊毛使用。柔らかく、水を含みがよい。水引き・水彩・ドーサ引き用。
唐刷毛
筆、刷毛の中で、唯一、水に濡らさないまま使用します。絵具や墨のボカシに独特の味わいをだします。
絵筆
平筆
(ひらふで)
羊毛(ヤギ)+馬毛
柔らかく、水含みがよい。広い面を塗ったり平刷毛のように使ったりと用途の広い筆です。
付立筆
(つけたてふで)
穂先のまとまりがよく、絵具の含みもよい日本画の代表的な筆です。墨の濃淡の変化をつけて描く「付立」の他にも万能に使えます。
運筆
(うんひつ)
馬毛、羊毛(ヤギ)、鹿毛
日本画を描く際に、万能に活躍する筆。 大ぶりなので、大きな作品に向きます。線を引くのにも塗りこむにも良く、書道筆としても最適。
線描き筆
(せんがきふで)削用
イタチ、羊毛、鹿毛
輪郭線や図柄全体の線を描くのに最適な筆で、運筆より細く、面相筆より太い。きれ味の良さが特長で、仮名文字を書くのにも最適。
線描き筆
(せんがきふで)かすみ
イタチ、馬毛、鹿毛
輪郭線や図柄全体の線を描くのに最適な筆で、運筆より細く、面相筆より太い。きれ味の良さが特長で、仮名文字を書くのにも最適。
線描き筆
(せんがきふで)則妙
白猫、羊毛(ヤギ)
やわらかいタッチが特長。輪郭線や図柄全体の線を描くのに最適な筆で、運筆より細く、面相筆より太い。きれ味の良さが特長で、仮名文字を書くのにも最適。
彩色筆
(さいしきふで)
彩色の為の筆です。絵具のおりを良くする為に、馬毛と羊毛が混合されています。塗り込み用として使い勝手が良く、幅広い用途があります。
隈取筆
(くまとりふで)
ぼかし筆ともいい、彩色筆でおいた絵具や墨を水だけ含ませた隈取筆で、ボカすのに用います。短峰彩色としても使い勝手が良い。
面相筆
(めんそうふで)
人物や仏像の面相(顔)のような細かい部分や 線描きをするための筆です。
連筆
(れんぴつ)
筆を数本組み合わせて連ねたものです。
刷毛では出せない表現や、グラデーションをつけたりする時に使います。使い方によっては 大変面白い効果がでます。
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